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1992年、ベルギーのpalermoらは、ヒトで初めて、顕微授精(ICSI)による挙児を成功させました。以来、20年近くを経て今では、ICSIは不妊治療において無くてはならない技術となっています。精子の少ない方や、受精障害が原因で不妊となられている方には、ICSIが適応となります。

ICSIでは、通常の媒精方法に比べ精子の、受精能獲得から卵透明帯を通過するところまでのプロセスを飛ばして、精子と卵子を直接融合させることになりますが、その後の受精以降の過程はどちらも同じ道を辿ります。

下記に当院での受精率を記します。

[当院での受精率]・・・conv:通常の媒精 ICSI:顕微授精

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今回は、精子のお話です。

卵子は、一回の排卵で通常一個の卵しか出ませんが、精子は、一回の射精で数億匹が出されます。精子が、睾丸の中で大元の細胞(精祖細胞)から精子となるまでには、約74日間かかります。これら精子は精巣上体というところに約2週間蓄えられ、射精のときに一気に放出されます。精子の長さは約50μmで、ほとんどが核で出来ている頭に、長い尻尾が付いています。頭の先には、先体と呼ばれる部分があり、ここにはいろいろな酵素が入っていて、この酵素は、卵の卵丘細胞や、透明帯を通過するのに必要なものです。

体外受精では、一つの卵子に約10万匹の精子をかけてあげるのですが、かけてからしばらくした後、卵を見てみると、周りの卵丘細胞が精子の酵素で溶かされて、もろもろになっているのがわかります。

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 トワ子『たったひとつの卵子に10万もの精子って、卵の中に入れるのは一匹だけなのに、スゴい比率よね。私も、一度でいいからそれくらい男に群がれてみたいものだわ。』

たま子『・・先輩、夫も子供もある身で、それはまずいですよ。』

ぱんぱんに大きくなった胚盤胞は、透明帯を破るために、最後の力を振り絞って、さらなる収縮と拡張をしながら、透明帯を押し破ります(孵化)。

透明帯から出てしまえば、後は子宮に着床するのみです。

子宮も、孵化し易いように透明帯を溶かす酵素を出したり、内膜を肥厚させたりと、いろいろな準備を整えています。

ここで、初めて赤ちゃん側と、お母さん側が結合することになるのです。

 

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上の写真は、まさに胚盤胞が孵化しているところです。

右側に飛び出ている方が、胎児となる側です。これから、全部が脱出して、殻(透明帯)を脱ぎ捨てます。

桑実胚となったら、今度は、その実の中に腔胞を作り出します。胎児になる部分と、胎盤になる部分が分かれてきて、胚盤胞というかたちになるためです。

腔胞はどんどん大きくなって行き、胚盤胞自体が膨らんで行って、元の大きさの2倍くらいになります。大きくなる時は、胚はいったん収縮して、勢いをつけるように、殻の部分にあたる透明帯を、"えいやっ"と押し広げながら大きくなって行きます。

この、収縮と拡張を繰り返しながら、孵化(着床の準備)に備えるのです。

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受精卵という、新しい核を持ったひとつの細胞が、2細胞→4細胞→・・・と、分裂を始め、細胞を増やしていきます。

これは、途中までは受精卵と体積が変わらないため、割球ひとつ、ひとつが小さくなっていきます。

やがて、何分割かの後、割球は融合し始め、その境目がなくなって来てひとつの塊の様になります。

桑の実のように見えるため、桑実胚と言われています。

やがて、この桑実胚は大きく膨らんで行き、胚盤胞というかたちになって行くのですが、そのお話はまた後日。

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トワ子『今年は、私の年ね。』

たまこ『何の事ですか?先輩。』

トワ子『この前、芥川賞の発表があったでしょう?その中のひとりで、朝吹真理子さんという方が受賞したんだけど、その「きことわ」ていう作品の中に、永遠子ていう主人公がでてくるの。絶対私の名前から取ったんだわ。』

たまこ『・・・。』

 

前回、採卵時の卵の写真をお見せしましたが、この卵子と精子を一緒に培養すると、写真のような受精卵になります。

細胞質の真ん中に、前核と言う核が2つ、くっ付いて見えます。

一つが奥さんの卵子由来の核で、もう一つが、ご主人の精子由来の核です。

まさに新しい個体の誕生です。

これから、分割が進んで、胚盤胞になり、子宮に着床するまでまだ先は長いですが、まずは妊娠への第一歩です。

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新年明けましておめでとうございます。

培養室のトワ子です。

今年も、培養のことやいろいろな事を、なるべく分かり易く、なるべくおもしろく、紹介させていただきますね。

今年もどうぞよろしくお願いします。



当院で体外受精を受けられた事がある方は、採取された卵子を見たことがあると思います。

卵子は、いつも同じ状態ではありません。未熟な卵子や状態の良くない卵子が採取される事もあります。でもピカピカの元気な卵子が採取される周期は、必ず来ます。

 

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写真の黒い点の様なものが卵子です。その周りに広がる細胞は顆粒膜細胞と言い、34mm程の大きさで、肉眼で見ることができますが、卵子自体は点で見えるか見えないか・・・。

しかしそんな小さなうちから、卵子は顆粒膜細胞から多くの栄養を取り入れて育ち、精子に出会えるその時を、じっと待っているのです。

初潮を迎えてから30〜40年、毎月排卵し月経を迎えます。

女性は一生のうちに400個の卵を排卵すると言われています。

でも実は女性がお腹に抱えている卵は、出生時なんと200万個。

そのうちの400個というと全体のたったの0.02%しか排卵されないということです。

いつ女性が卵子を持ち始めるのか・・・受精までさかのぼります。

卵子にX染色体を持つ精子が進入し受精すると、♀の子の受精卵となります。

♀の子の受精卵は、受精後24日目ごろから卵子のもととなる細胞を作り始めます。

そこから爆発的に数を増やし、5ヶ月(胎齢)の時に人生最大の卵子数700万個となります。

 

たま子『700万個ですか!?じゃあわたしたち1人1人って700万分の1の確率で生まれてこれたんですね!!』

トワ子『フッフッ、甘いわね。人は卵子と精子の合体で出来てるんだからそこに精子の数も確率に関わってくるし、数億分の1×700万分の1の確率よ。わたしたち選ばれた人間なのよ。』

たま子『先輩、暗にご自分のことを言ってるんですか?』

トワ子『もちろん♪』

去る1111,12日に、徳島で第55回日本生殖医学会があり、私達培養室からは、「採卵時未成熟卵子の成熟培養時間と胚発生の検討について」と、「発育遅延day2胚の有効利用についての検討」の2演題を発表しました。

石川から車で相乗りして行ったのですが、6時間ほどかかりました。旅立った日は凄い風雨でしたが、徳島ではずっとお天気も良く、温暖な気候が羨ましく思いました。

 

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たま子『徳島って、なんでもスダチをかけるんですね。みそ汁や、お刺身にまでかかってますよ。』

トワ子『ちょっと驚いたけど、食べてみたら美味しいよ。』

たま子『スダチって、レモンよりもビタミンCが豊富で、美容にも老化予防にも良さそうですよ。・・・・・先輩、いきなり果肉まで食べるのやめて下さい。』

発表用ポスターを貼っている所

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先日、2010年のノーベル医学賞に、イギリス人のRobertGEdwards氏が選ばれました。

世界初の試験管ベビーを誕生させた科学者です。

1978725日に全世界の注目を集めて誕生したルイーズ・ブラウン嬢も、はや30才を越え、結婚後出産もしており、体外受精児が健康な子供を産めることも実証しています。

 トワ子『ルイーズちゃんのニュースをテレビで初めて見た時は、びっくりしたわ。試験管ベビーという言葉がとてもSF的で、最初は試験管の中で、赤ちゃんまで発育させるのかと思ってしまったもの。』

たま子『先輩、歳がばれますよ。私はまだ生まれていませんでしたから。』

トワ子『・・・。とにかく、この30数年の間に、全世界で400万人近くもの子供が、IVF(体外受精)でこの世に生を受けているのだから、倫理面での議論を除けば、体外受精は安全、安心な技術であることを証明してるわね。』

 私達培養室が日々行っていることは、体外に取り出した卵子と精子を受精させて、2日あるいは6日くらいまで発育させた胚(受精卵)を、子宮の中に戻すまでの培養の過程です。赤ちゃんになるまでの期間にとったら、ほんの僅かな時間でしかありませんが、1細胞であった卵子が、100近くの細胞数まで変化していく様子は、とても感動的です。

はじめまして。
永遠幸レディスクリニックの培養室で長年働いているトワ子です。

普段は皆さんと殆どお会いする事はありませんが、私たち培養室は、皆さんの大切な卵子や精子をお預かりし、少しでも良い胚になるよう日々努力をしています。
これからは、そんな培養室の中でのお話など、いろいろな事を新人のたま子ちゃんと一緒に、みなさんにお伝えしていけたらと思っています。

どうぞよろしくお願いします。

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