不妊治療のため当院を受診される方は、年間のべ2万人を超えます。その内訳を見ると、卵管因子、男性因子等、原因が明らかな症例はむしろ少なく、原因不明の場合が過半数を占めています。原因を明らかにして、治療できるものは治療し、自然に妊娠できることが理想ですが、妊娠率は女性の年齢と卵子の質に大きく依存しているため、原因の"診断"に時間を費やすよりも、現時点で妊娠のために利用できるものを最大限に活用してどう対応していくかという"判断"を余儀なく迫られる医療であると私たちは考えています。
個々の精神的・社会的・身体的背景をふまえた上で、なるべく迅速に、またいろいろな負担も少なくなるように、検査および治療計画を立てていきたいと思います。
基礎体温、超音波検査、血液(ホルモン)検査等により、卵胞発育を観察しながら排卵日を予測し、性交推奨日を指導します。性交後、できれば24時間以内に、子宮頸管粘液を採取して、子宮内への精子の進入を評価します。これを性交後試験(PCT)もしくはヒューナーテストと称しています。さらに一定時間後、卵胞破裂(排卵終了)の確認や黄体機能の点検を進めていきます。
卵胞発育や排卵、ホルモン環境の観察等は、性交指導の場合と同様ですが、性交ではなく、用手的に採取した精液を洗浄濃縮して、良好運動精子を子宮腔内へ特殊なチューブで注入する方法です。性交の場合よりも子宮内へ多くの精子を送り込めますが、その後の卵管内での精子と卵子の出会いから着床までの経過は性交と変わりません。性交(タイミング)指導も、人工授精(AIH)も、体内受精(卵管内受精)になります。
性交では精子が十分に子宮内へ進入しない場合、あるいは推奨日にうまく性交できない場合等に人工授精が選択されます。性交後試験が良好であるのになかなか妊娠できないからという理由で人工授精へ進んでも、妊娠率の向上は期待できず、本当の意味で「step up」したことにはならないこともぜひ知っておいて下さい。
性交指導と人工授精はともに、妊娠可能な量と質を備えた精子が子宮内へ進入できて、少なくとも片方の卵管が閉塞していないことが、最低必要条件となります。卵管が両側とも閉塞していたり、精子の状態が不良であれば、妊娠できないということは容易に納得できるでしょう。ただ、卵管の検査は、卵管造影も腹腔鏡検査も形態検査であり、機能検査は難しいのが現状です。妊娠成立のために、卵管は、排卵した卵子を取り込み、精子と出会わせて受精させ、胚を育みながら子宮まで輸送するという一連の機能(仕事)を果たしています。卵管は、妊娠の重要な鍵を握っていると思いますが、その評価はブラックボックスといえます。この卵管の機能すなわち卵管内で成立しているべき現象に疑問が生じた時、卵管内で起る妊娠の最初の段階を体外で実現するのが、体外受精です。
体外受精-胚移植(IVF-ET)は、卵巣内の成熟卵胞から卵子を採取して体外に一旦取り出した後、卵管と同様の環境に開発された培養液の中で精子と出会わせて受精させ、一定期間培養してから子宮腔に戻して、着床と妊娠を期待する方法です。体外受精によって、卵子の質や、受精率、胚の質もある程度明らかになります。
我が国ではここ20年間で、排卵誘発法の改善、採卵技術の改良、顕微授精法の確立、精巣精子採取法による無精子症への対応、培養環境の改良と胚盤法培養と移植の実現、assisted hatchigによる着床改善、胚移植法の工夫、凍結保存法の進歩等、体外受精の世界はめざましい発展を遂げました。残念ながら体外受精によってすべての不妊が解決されるものではありませんが、現在最も強力な不妊治療法と考えられます。
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